卒業後、勤めたTVコマーシャルの制作会社が傾いた後、
昼間は派遣社員として企業の受付や秘書室の仕事を、夜は絵コンテ事務所のコンテライターを掛け持ちしていた時期がありました。
一緒に働いた方達の中には素敵な人がたくさんいらっしゃいましたが、
印象に残っているのは大きな百貨店の店長を勤めあげた方でした。
大きなリストラをした後、ご自身も一線を退かれ、嘱託職員として企業の受付に立たれていた男性。
道を聞かれた時の為に、周囲の建物は殆ど把握し、分からなかった所は昼休みに歩いて出掛け調べる。
雪の日は早く来てロビー前の雪掻きまでする。(清掃専門の方がやってくれるのですが)
外国人観光客が増えれば、ビジネスホテルのパンフレット、両替できる銀行のパンフレットをカウンターの引き出しに揃える。
役員のお昼の待ち合わせ中の会話にも細かく気を配り、
新入社員や面接の学生が来ると、親切かつ厳しい一言を添える。
終業後も1人残って、セキュリティカードを1枚ずつ磨きあげ、館内に残っているお客さまがあれば、残業代も出ないのにお見送りをする。
高齢の方が猛暑日に座り込んでいると、バス停まで付き添って行く。
入りたては生意気だった私にも、とても謙虚に接して下さり、今思い出すと謝りたい事の数々……。
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受付や秘書室には女性が多く、
『わたくし地上のお仕事は初めてなの。』と言うのが口癖の元キャビンアテンダントの方や、
4か国語ペラペラの方、役員ごとにお茶の入れ方を変える秘書の方、いろいろな方がいらっしゃいましたが、
相手が求めていることに本気で応えようとするのは、私が知る限り嘱託の彼がピカイチだったと思います。
喫茶店でサボっていた時に読んだ本に、
『本気の人には敵わない』という一文がありました。
長い経験や知識、技術もとても大切ですが、
自分で選んだ職業に対して本気であること。
改めて、彼に倣いたいと思います。
東京を離れる時、彼にいただいたお酒。
吉野店オープンの時に開けようと思います。